近代文学の女たち 前田 愛

  • 前田愛の文章は雑誌でしか読んだことがなかった。読んでみたいと思ったのは没後で、アテネフランセでのジュリア・クリステヴァ講演の際、通訳として彼女の隣にはべった仏文学者の小松某が、その胸に造花をつける役をやったのみで、マダム・クリステヴァの思想は翻訳不可能だからと嘯きその任を果たさなかったとき、客席から憤然として立ち上がって「君、訳したまえ!」と叫んだおぢさんが前田愛だったと知った時だ。「私の話に異議のある人は終ってから発言して下さい」と、クリステヴァは(もちろんフランス語で)言い、少数の失笑を買った(私も会場にいたのだが、講演から十数年も経っていただろうか、あのときのことを書いた誰かの文章を読んで、それが前田愛だったこととクリステヴァが何を言ったかを遅まきながら知った。大学でのクローズドの講演ではない。通訳つきと明記されていたから私も行ったのだ。)客席を見渡すと蓮實重彦夫妻が並んで着席しているのが見えた。私のすぐ前の席では、要するに小松さん、フランス語ができないんだよ、と男の学生二人がしきりにあざけっていた。
  • 赤松登志子と荒木志けのあいだに鴎外は金で女を囲っていた。それは知っていたが、だから、『雁』の旦那の立場に鴎外はいるのだという指摘――これは全く気づかなかった。成程ね!(8/11)

*『にごりえ』から『武蔵野夫人』まで 岩波現代文庫(200307)945円◆8/7(水)@ブックファースト 銀座コア店