文科バカは存在しない

  • http://kaorusz.exblog.jp/3931353/その他の拙文で言及していた、〈理系には専門バカがありうるけれど文科系バカはただのバカ〉発言の出典が見つかった(要するに、本が出てきた)。小林 和之『「おろかもの」の正義論」』(ちくま新書、200412)である。

ノーベル賞を受賞した高名な分子生物学者が、文学とか哲学が脳科学に吸収されてしまうという旨のことを語っている。わたしは、これを非常に見識のない主張だと思う。そして、彼に理解できるかたちでこれまで彼の誤りを指摘できる文学・哲学の専門家がいなかったことを残念に思う。(p.100)

  • 著者が註で述べるようにこの生物学者とは利根川進(『わたしの脳科学講義』岩波新書、2001)であり、私はその本は読んでいないが、彼の同趣旨の発言は新聞記事でも見かけたように思う。著者は続く部分でその「誤りを指摘」しているわけだが、ここでは最後の部分だけを引く。

あることにのみ秀でている才能はその分野でのみ生かすようにすることが合理的である。そのことさえ注意していれば、他の分野で愚かであってもかまわない。理科バカでいいのだ。/念のためにいっておくと、わたしは理科系をバカにしているのではない。どの分野にも専門バカはいるが、理科系に特徴的な専門バカのあり方があるように感じられるということを指摘しているにすぎない。だから、もちろん文科バカというのもありうるはずなのだ。ところが、文科バカということばは存在しないようだ。たぶん文科系の場合は頭に「文科」をつける意味が「ないのだろう。バカに関していうなら、「理科とハサミは使いよう、文科につける薬はない」(p.108)