薬でうつは治るのか? 片田珠美

  • 「お金で買えない価値がある。買えるものはマスターカードで」ここhttp://d.hatena.ne.jp/kaoruSZ/20060809#p6でもそう書いたけれど、要するにそういうこと。症状は軽くなったように見えても、薬では解決できない問題を抱えている場合もある。「抗うつ薬で治るもの=うつ病」という倒錯。一生、薬への依存を続けるのか? ちょっと考えればわかるようなことだが、そこは専門家にきちっと語ってもらわないと。その意味で意義ある本だし、精神科が薬物療法中心になった歴史とその背景もおさえてあるので資料としても役立つ。メインブログ「ロワジール館別館」への唐突なフェミニズム・バッシング(http://kaorusz.exblog.jp/d2006-08-01およびhttp://kaorusz.exblog.jp/d2006-08-04への粘着質なコメントを見られたい)における、「うつは薬で治る病気」と、それだけを、こちらの文脈を無視して言い立てる主張の無意味さを医学的にも裏づけるものだ(重ねていうが、これはちょっと考えればわかる程度のことだ)。(farceurだかL閣下だか知らないが)IDも消して姿をくらましたようだが、せいぜい再発しないよう気をつけるんだな。(9/14)
  • さらに、抗うつ剤の一部の副作用としての自殺衝動や攻撃衝動が高まる危険性(しかも患者にそのことが説明されていない)、その実例にまで話は及ぶ(ここは、さすが専門家と言おう)。それにしても、脳の機能不全が起こっているから薬で治しましょうという「もの扱い」の方が心を病んでいると見なされることよりも、つまり「心の病気」ではなく「脳の病気」とするほうが患者の心理的ハードルが低くなるという説明を読んでいると、今さらながら、「同性愛者は脳が違う」として納得したい人々(当事者非当事者問わず)の心性とパラレルだと思う。(9/14)
  • この本のことを書き送った友人からのメールに、「働かざる者、自立していないもの=依存しているもの」に対する冷たい態度が自分の中にもあるとあったのが気になったので、少々補足を。ここでいう依存に「価値」は入っていない。薬に頼らずしっかりしろというような「道徳的」判断では全くない。f事件のことがあるので私の読みには色がついていたかもしれないが、それを脇においてこの本を虚心に見るなら、まず、実際に薬物療法を受けている患者に向けて書かれた本であろうし、漫然と抗うつ剤を出しつづける現状への鋭い批判である(効果とリスクを見極めて投薬しなければならないのに、不定愁訴の患者に内科医が何種類も抗うつ薬を出した末、よくならないので精神科にまわしてくるケースも多いという)。患者の訴えを聞いたところで保険点数が上がるわけでもない。それでもよい医者はいるから見つけろというが、これは難しい……。私自身、(精神科ではないけれど)仕事で医者たちと接しているので、このあたり突然実感としてわかってしまう(そして確かによい医者もいるのだが……)。(9/20)

洋泉社(200609)809円◆9/13(水)@リブロ池袋店