サルトル『むかつき』 ニートという冒険 合田正人

  • みすず書房が新たにはじめた軽チャー・シリーズ、これまでに二三冊読み、どれも薄味でどうにも物足りなかったが、本書は面白かった。しかし、「センセー」と自らを称する著者が語りかける(それ自体はべつに感じ悪いわけではない。相手を見くびっているわけではない)想定された読者へこれは届くのか?(そもそも、書物が想定された読者のもの[占有物]だったためしなどあったろうか?)「理想の教室」というのが正式シリーズ名だが、10日に会ったとき、何も知らないために素直な大学生の言動をなげく現役大学教師のYさんに、そういえばこんな本が出ているんだけどとうす笑いを浮かべつつバッグから出して見せたときいみじくも彼女が言ったように、サルトルなど高校生で自分で読みはじめるものだろう。学生の幼稚化をYさんは言うが、今だって読む子はそのくらいで読んでいるはず。むろん、進学率から言ってもYさんの頃と学生の質が違うのはあたりまえ(それに加えて大学のレヴェルがあろう)。「理想の教室」でサルトルをならうって? とせせら笑いたくなるのは当然だが、まあ、制度は口実だからね。本は必ずそれが読まれるべき人のところに届く。原題は確かに「嘔吐」ではなく吐き気、それを「むかつき」とひとひねりしてロカンタンをニート視したアイデアはモトを知っている人を微笑させるが、〈今〉に媚びたそこのところはいうまでもなく一番早く古びることになろう。(10/12)

みすず書房(200608)1575円◆10/8(日)@ブックファースト ルミネ新宿2店