男女交際進化論「情交」か「肉交」か 中村隆文

  • 溝口の『近松物語』があまりすごかった[良いという意味]のでこんなのを買ってしまった。人違いで「肉交」する世話物浄瑠璃ではなく、近代的な「恋」の話に書きかえられていたから、ちょっとそのあたり(近代的「恋愛」概念の成立)を見たい気がした。内容的にはオリジナリティのある情報があって面白かったが、書き方がいけない。「先日、とある小学校のPTAで講演を依頼されました。その当日の朝、開口一番に、/「『男女交際』に興味がありますか?」/と質問すると、保護者の方々はさまざまな反応をされました。ニヤニヤ見ているお父さん、少しモジモジした感じで伏し目がちになるお母さん(後略)」て、なんだこの紋切型は。「またこの本は、読者の皆さんに明治時代を一緒に味わっていただきたいという筆者の勝手な希望で、誠に申し訳ありませんが、引用文をなるべく原文に近い形で掲載しています。難しいところは振り仮名や現代語訳をつけていますし(中略)このことが本書を、少し読みづらいものにしているかもしれませんが、ちょっと学問してしまった、と思って読み流していただければ、筆者は本当に幸せです」「難しいところ」どころじゃない、文語文が出てくるといちいちご丁寧に現代語訳がつく。中学生向けかよ。歴史的かなづかいが直されていないのはいいが、そんなのはあたりまえでほめるようなことではない。編集部の指導かもしれなが、「難しい」と言われるのがそんなにも恐いか? 結論が結局は「よい子の男女交際」どまりなのもイラつくなあ。これで著者がフェミニストのつもりだったりしたらどうしよう。(12/3)

集英社(200603)735円◆12/1(金)@近藤書店 聖路加ガーデン